覚書/草莽の志士

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help リーダーに追加 RSS 桜咲く招魂場に(上巻)

<<   作成日時 : 2006/04/22 17:40   >>

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 抱かれていたのだ、あの日僕は夜明けまで。小学校6年生の夏休みのあの日、校内でサマーキャンプみたいな催しがあった。その年の6年生を対象にグループに分けられ、僕らは運動場の隅にテントを張った。きっと夕飯にカレーライスなんかを皆で分担で作って、テントの中では好きな女の子の話を消灯時間まで咲かせて、翌朝にはイリコダシから味噌汁を作っていたのだろう。その辺り、醜い大人となった今では僕はどうもよく想い出せないのだ。だが、どんなに汚れようとも色褪せない記憶もまたあるものだ。

 その夜も消灯時間が来て運動場に浮かぶ淡い灯が一斉に落ちた。当然にそこから僕の長い夜は幕を開けた。僕らは既に日中から今夜の脱走を計画していた。捕虜となった戦友の間で交わす目配せと秘密の合図宜しく。引率の先生や保護者代表らの目を盗み、すれ違い様に僕らは唇を動かさず言葉を交わし決行を誓っていたのだ。消灯の後、しばらくすると懐中電灯を片手に見回りの大人達が来た。僕は耳を立てて彼らの足音が遠のくのを確認し、群れから抜けがける発情したリカオンのようにテントを後にした。どこの学校にもあるように、この小学校にも抜け道はあるのだ。木立に隠れた金網に獣一匹抜けられる程の穴が。

 別に何をした訳ではない。ただそこに自由を、体制から抜け出すことに輝きを見ていたのだ。塀の外で落ち合った僕らは校舎が見える範囲で放っつき歩いた。学校の裏手には桜山神社があった。そこへ続く石段の上がり口に差しかかる頃、誰からともなく「キモダメシ、しようや」と声が上がった。怖がりの僕の心は瞬時に凍りつき、気づかれぬようにそっと後ろに回った。桜山神社には当時、誰もが知る所の話があった。神社の御社の裏手には四方を石柱で囲われた墓地があり、深夜になると時折“出る”と云うのだ。この世の者ではない輩、が。

 実際に新聞でこんな小記事を読んだ記憶がある。兄弟二人が夜、桜山神社にクワガタを捕りに行った。境内には巨木や古くに植えられたであろう桜の樹がズラリとそびえていて、僕も実際クワガタを捕まえたことがある(勿論、日中にだが)。クワガタ達の活動が活発になる時間帯(深夜)を見計らって兄弟は境内に入った。その時間帯、つまりは丑三つ時。兄が樹によじ登り、その先を弟が下から懐中電灯で照らした。兄弟の勇気に相応しい大きなクワガタが樹液を吸ってるのを発見した。樹上の兄は捕獲したオオクワガタを片手に誇らし気に地上にいる弟を振り返った。そして…兄は樹から落ちた。病院に運ばれた彼はこう警察に話したと云う。弟の傍にもう一人いた、と。弟の傍にもう一人、鎧兜を身に纏った誰かが。

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